馬鹿みたいだ、と呟いて
触らぬ神に祟りなし、とはこの事か。
ジェフティにしてみれば機嫌が悪いならば悪いでもいいが、何分戦いとなった時に支障が出る。
その事を考えると、機嫌が悪いよりは良い方がいい。
「ねぇ、ここのところカイトの機嫌が悪すぎると思わない?」
いつもは物事を楽天的に考えるサラでさえ、そのような言葉を発した。
それほどまでにカイトの機嫌は悪く、彼の好物であるチョコレートを与えても直りはしない。
無論、原因が分からないわけではない。
考えられる原因はただ一つ。
桐山ライカである。
彼がカイトに好意を寄せている事は誰もが知っている。
カイトもライカが気になっている事も、やはりほとんどの者が知っている筈だ。
「ライカ、君はまた何かカイトにしたのかい?」
あまりの事でライカに問いただしてみたが、心当たりはないと返された。
とはいっても、ライカに自覚はなくとも、カイトを怒らせたり傷つかせるような事を言ったのかもしれない。
こういう場合は本人に直接聞くのが一番良いのだが、カイトは近づけれるような状態ではない。
となると、どうにかして別の方法で原因を探さなくてはならない。
しかしジェフティには他に良い方法が思いつかない。
こうなると、無理を承知でカイト本人に聞くしかなくなってしまった。
仕方ないと腹を括り、カイトに聞くしかないだろう。
本当ならばこんな事はしたくないのだから、こんな状態でもしウラノスに襲われたたら、どうなるか安易に想像がつく。
「あのさ、君は何をそんなに腹を立てているんだ?」
カイトにそう問いただすと、突然とカイトは真っ赤になった。
怒りとかそういうものではない。
きっとこれは、必死に何かを隠そうとしている証拠だ。
「べ、別に俺は、ライカの事で怒っているわけじゃないからなっ!!」
「………」
嗚呼、なんと分かりやすい性格をしているのだろう。
ジェフティもまさかこんなにも早く理由が分かるとは思ってもいなかった。
しかもあんなに機嫌が悪かったというのに、問いただした瞬間にそれは和らいだ。
何だ。何なんだ。
いくらなんでも単純すぎやしないか。
「…それで、ライカに対して何を怒っているわけ?」
「う…っ」
「話してくれなくちゃ、僕も色々と困るんだよ」
ちらり、とカイトはジェフティを恨めしそうに見つめたが、しぶしぶと頷いた。
こんなにも機嫌が悪くなるのだから、きっと随分とカイトの機嫌を損ねるような事をライカがしたのであろう。
だが、見事にジェフティの予想は裏切られる事となった。
「ライカが、俺の事を可愛いって何度も何度も言って来るんだよ」
「………え?」
ちょっと待った。
今、彼は何と言った?
自分の耳に異常がなければ、確か、可愛いがどうのとか言った気がする。
「俺、恥ずかしいから止めてくれって言ったんだけど、全然聞いてくれなくてさ」
「……もしかして、それだけ? たった、それだけの事?」
「え? ああ、それだけだけど」
なんとはた迷惑な話だろう。
だからライカは心当たりはないと言ったのだ。
本人としては甘い言葉を囁いていただけで。
これだから嫌なんだ、とジェフティは思わざるおえない。
世の皆が言う『バカップル』というものはこの世から全てなくなってしまえばいいとすら思う。
「そんな事で腹を立てていたのか」
「うわ、ライカ!?」
何処から現れたのか、気がつけばライカがカイトの後ろに立っていた。
しかしジェフティは驚きはしなかった。
否、そんな気力などないのが原因なのだが。
「真実を言って何が悪い」
「恥ずかしいからだって何度も言ってるだろ!? おかげでこっちは何度恥ずかしい思いをしたか!!」
「俺はそんなカイトも可愛いと思うが」
「な、何を言ってるんだよお前は!!!」
そういえば、こんなような事が前にもあった気がする。
あの時はカイトはここまで機嫌を損ねたりはしなかったが、会話はほぼ全く同じだ。
「……もういいよ。好きにしてくれ」
もう二度と同じような事があろうと、何もしてやるものか。
勝手にすればいい。
胃が酷くキリキリと痛むのを、ジェフティははっきりと感じた。
07.12.17.なち(水色)
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