戦争開始
「君はカイトの事をどう思っている?」
突然と呼び出されたかと思ったら、第一声がそれか。
ライカが心の中でそう毒吐くものの、ジェフティは全く気にしてはいない。
ただ冷たい目で、ライカを見ている。
「僕は好きだよ。カイトの事が」
「………」
「誰にもカイトを渡したくないって思える」
嗚呼、成る程。
ジェフティはこう言いたいのか。
君にその気がないのならば、むやみにカイトに近づくな。
そうやって釘を刺して、自分以外の者をカイトに近づけさせないようにしたいのか。
「…悪いが、俺はお前に協力は出来ない」
「だろうね。だって君とカイトはもう想い合っているから」
「知っていて言ったのか」
「うん。知っているからこそ、かな」
ライカは時々、ジェフティの行動が分からない。
大人びた行動をするこの少年は、変なところで子供に戻る。
「つまり、君からカイトを奪うつもりだって事だよ」
そう言って微笑んだジェフティはいつもの彼そのもので。
負ける気はないものの、ライカは何故かその笑みに冷たさを覚えた。
***
「カイト、ジェフティには気をつけた方がいいわよ」
「…は?」
ヘルマの言った言葉の意味が、カイトには理解が出来ない。
ジェフティには気をつけろ?
仲間である彼を、どうして警戒しなければならない。
「きっとアナタ、気を抜くとすぐに食べられちゃうから」
くすくすと笑って、ヘルマは足早に立ち去ってしまった。
やはり意味が分からない。
しかし、良くない事が起こるのはカイトにも何となくだが理解出来た。
執筆/2007/なち(水色)
自己中心的主義者
(何で僕が、こんな思いをしなくてはならないんだろう)
胸の奥で何かが渦巻いている。
こんな感情をジェフティは今まで感じた事がない。
だが、何という感情なのかは知っている。
「ジェフティ?」
「…何だい、カイト。どうかした?」
「いや、何だか気分が悪そうだからさ」
それもそうだ。気分は最悪だ。
もしも君が今現在隣にいる奴と距離を置いてくれたら、少しはマシになるだろうけど。
しかしそんな考えが通じないことぐらい、ジェフティだって分かっている。
「何でもないさ。そうだよね、ライカ」
「………ああ、そうだな」
ライカは気がついている。
この思いについて、知っている。
「そうだ、カイト。この後で僕の部屋に来てもらえるかな」
「いいけど、何の用でだ?」
「ちょっとした事だよ。君の為になると、僕は思うけどね」
よく分かっていないものの、承諾するカイトの姿は純粋そのもの。
そんなカイトから視線をずらしてライカを見れば、彼は複雑そうな顔をしていた。
ジュフティはにっこりと微笑み、カイトへと視線を戻した。
ごめんね、カイト。
君の為にはならないと思うよ。
だってこれは、全て僕の為だから。
執筆/2007/なち(水色)
棘に殺される
刺すようなこの胸の痛み。
これで一体、何回目だろう。
もう何度、この痛みを感じた事だろう。
回数なんてとっくの昔に忘れてしまった。
俺の事を考えているつもりで、本当はちゃんと考えた事なんてないんだろ)
もしも口に出していったのならば、ライカはそれを否定しただろう。
だがカイトは決してこの思いを口に出したりはしない。
(いつも俺ばっかり空回りしてさ)
カイトがジェフティ達と会話をしているとすぐに割り込んできたり、不機嫌になったりするくせに。
何で自分の事となると「そういう事はするな」と言われなくてはならない。
嫉妬するのはお前だけじゃないんだ。
自分ばっかり好きみたいな言い方をして。
「カイト、聞いているのか?」
いつもと同じように自分以外の人物と会話している ところに割り込んだら怒られ、
その事について先程からライカは説教的な事を口にしていた。
しかしカイトは一切その話を聞いておらず、ただライカに対して疑問を募らせていく。
勿論、その事にライカは気がついてはいないだろう。
「…別に、どっちでもいいだろ」
「そういうわけにはいかない。これは重要な事だ」
また、そうやって自分に都合のいい事ばかり。
そういうのは、吐き気がする。
(……痛い)
ちくり、と胸が痛む。
この痛みはきっとライカには分からない。
すれ違うばかりの自分達では、この痛みを共有する事は不可能だ。
執筆/2007/なち(水色)
耳を塞いで心を閉ざす
「カイト、」
「放せよっ!」
何でこうなったのかが分からない。
気がつけばライカに抱きしめられ、唇を奪われていた。
全くもって理解が出来ない。混乱している。
「何でこんな事、したんだ」
気分が悪い。こんなにも気分が悪くなった事はない。
正直、泣きそうだ。
でもライカの前で泣きたくなんてない。
「…分からないか?」
「ああ、分からないよ。分かりたくもない」
こんな事をしておいて何が言いたい。
人にこんな辱めをしておいて。
「ならば仕方がない。教えてやる」
「止めろ。お前の話になんて聞きたくないっ」
「否、聞いてもらわないと困る」
身体を抱きしめているライカの腕の力が強まる。
あまりの強さに、カイトは小さく呻き声を上げた。
しかし、ライカはカイトを放さない。
「お前の事が、好きだからだ」
執筆/2007/なち(水色)
遠く、近く、
触れよう、と思って伸ばした腕を空中で止め、自分の元へと引き戻した。
そして拳を、強く握り締める。
「ライカ、どうかしたのか?」
何も知らないカイトが、不思議そうにこちらを見てきた。
いつもならばこんな顔も可愛い、などと思っていただろう。
だが今は、その顔を見つめる事が出来ない。
「…いや、何でもない」
カイトは一瞬怪訝そうな顔をしたが、納得した言葉を紡いでライカから視線を逸らした。
本当は理由を聞き出したいのだろう。
しかしそうしないのは、あまりにもライカの様子がそれに応えられる様には見れなかったからだ。
普段と打って変わった様子に、追求しない事にしたに違いない。
(触れる事など出来ない)
触れるのが怖い。
ここから先、人生なんてどう転ぶか分からない。
もしも、もしもカイトが突然と自分の前から居なくなってしまったら?死んでしまったら?
(そうしたら俺は、どうすればいい)
カイトが居なくなってしまった時の事を考えると、怖くて堪らない。
こんな事を考える自分は馬鹿げているかもしれない。
だが、どうしても考えずにはいられない
(頼むから、俺の前から居なくならないでくれ)
ふと、カイトに触れる事が出来なかった自分の手を見つめる。
どこかその手は、酷く冷たさを帯びている様に見えた。
執筆/2007/なち(水色)