気がつくと勝手に傍にいるくせに、いつの間にかいなくなっている。 邪魔だと言ってもしつこく傍にくる。なのにいてほしい時に限っていない。 自分以外の人間の元へ行き楽しそうな顔で笑っているのだ。 それが何故か、妙に腹立たしい。 そして気がつけばどんな時だろうとが傍に来ても邪魔だと思わなくなっていた。 口では邪魔だとは言うのだが心はを求めている。

「鍾会殿!」

何か用があるわけでもないのに部屋に入って来たかと思えば、 相変わらずはさも当然と言わんばかりに鍾会の隣へとやって来た。 そしてぎゅっと腕に抱きついてくる。こういうのを見ると女だという自覚がないのかと思える。

「な、何をする!」
「ちょっとした交流だよ、交流」

慌ててを引き離そうとしたが笑ってそう言って離れてはくれない。 いつもこうだ。 鍾会の言う事を絶対には聞き入れようとはしない。 どうやら慌てる鍾会の反応を見て楽しんでいる節があるようだった。

殿、私は忙しいのだ。貴女の相手をしている暇はない」
「ああ、大丈夫。邪魔にならないようにするから。鍾会殿はやる事をやってていいよ」
「この状態が既に邪魔だとは思わないのか!」

これぐらい鍾会殿なら平気でしょ、等とは言う。 何が平気だと言うのか。そしてやはり離れない。 鬱陶しいと思うと同時に離れてくれなくてどこか安心する。 が傍にいてくれるのが鍾会には嬉しい。 密着されるのは恥ずかしいが、それでも傍にいてくれている事には変わりない。 出来ればこのままずっと此処にいてほしいとすら思う。

(……だが、これではまるで私が殿の事を好いているかのようではないか!)

好きか嫌いかと問われれば嫌いではない。むしろ好きだろう。 だがそれは恋愛としての意味ではないと鍾会は思っている。仲間として、同僚としてだ。 しかしそれではこの気持ちをどう理解すれば良いのだろうかと思ってしまう。

「鍾会殿、様子が変」

腕に抱きついたままが不思議そうな顔をして見つめてきた。 こんな顔も愛らしい気が、と考えてからその考えを頭から振り払う。 確かにの言う通り自分の様子はおかしい。 原因は確実になのだがそれをに言ったところで何も変わりはしないのは目に見えている。

「あ、もしかして調子が悪いとか? それなら私が此処に居ちゃ駄目だよね。出て行くよ」

するりとが腕から離れる。 このままでは本当にこの部屋から出て行く。 そう思ったら身体が勝手に動いていた。

「待て!」

気がつけばそう叫んでいて、の腕を掴み、挙句に腕の中に閉じ込めていた。 突然の事に流石にも腕の中できょとんとしている。 自分でもよく分からなかった。何故こんな事をしているのだ。 時間が経つにつれ段々と羞恥心が増してきてやはり今の自分はおかしいという考えに達した。

「こ、こんなつもりでは…っ」

とりあえずを解放しようとしたがは鍾会の腕を掴んで解放させないようにしてきた。 そして、何が可笑しいのかくすくすと笑っている。 おかげで余計に恥ずかしくなってきて、を離そうとするのだが混乱しているせいかうまくいかない。

「鍾会殿、此処にいてほしいならちゃんとそう言えばいいのに」
「これは何かの間違いだ! 私は殿に対してその様な事を思ってはいない!!」
「素直じゃないなあ。そういうところ、鍾会殿らしくていいけど」

相変わらず笑っていてはこの状況は楽しんでいる。 ああそうだ。は自分が慌てるのを見て楽しんでいるのだ。だからこうしている。 それに気がつくと少しばかり気分が落ち込んだ。 だがそんな理由でもが居てくれる事が嬉しい。 やはりの言う通り、認めたくはないが自分はが傍にいてくれる事が嬉しいのだ。

ひねくれもの