身体がうまく動かない。死が近づいている事は明白であった。 私はこちらを心配そうな顔で見つめている夏侯覇を見つめ返した。 女官や他の者達はこの部屋には居ない。二人きりにしてほしいと頼んだからだ。 もうすぐ死に逝く者の最期の願いくらい聞いてやろうと思ったらしく彼等は聞き入れてくれた。

「そんな顔、しないでよ。私がもう長くはないのは蜀へ来る前から分かっていたじゃない」

私はこの病のせいで長くはないと随分と前から分かっていた。 薬で多少の延命をしてきたがそれも限界だった。

「それでも、俺と一緒に来なければもまだ少しは…」

既に絶対に安静を言い渡されていた私は、 夏侯覇から蜀へ亡命すると告げられてそんな忠告など気にも留めず一緒へ蜀へとやって来た。 それにより病は確かに悪化した。確実に死が早まった。 私の病の状況を知らなかった夏侯覇はそれを知って怒っていたけれど、 私からしてみればどうせ死ぬのだから大して変わらないようにしか思えなかった。

「ねえ、夏侯覇。私はあのままあそこに居たら殺されると思ったから貴方と此処に亡命したわけじゃないのよ。貴方と一緒に居たかったから、貴方が好きだから一緒に来たの。だから私、いいの。このまま死んでも何も後悔はないわ。だって自分で選んだ道なんだから、むしろ幸せよ」

少しでも夏侯覇を安心させたくて笑ってそう言ってみたものの、逆効果だったらしい。 、と私の名前を呟いて夏侯覇は俯いた。 泣きそうな顔をしていた。ああ、きっと泣くに違いない。 そんな顔しないで少しでも私に触れてくれれば良いのに。私は貴方に触れたいのに。 でも夏侯覇は触れてくれないだろう。 臆病な彼の事だから、私に触れている間に私が逝ってしまったら、なんて考えると出来ないだ。 それでも私は触れてほしい。触れたい。 私から触れることが出来れば良いのだけれど、身体が動かない。死が、近い。

笑えるうちに伝えたいこと
title : pulmo