「ねえ、聞いているの?」 そう問えば、はい勿論です、と返される。 それが嬉しくてついつい口元が緩む。 がこうして話相手として楽進を部屋に呼び、もうかなりの時間が経つ。 きっともう楽進は私の話なんて聞きたくないのでは、実は適当に流しているだけなのでは、と懸念したがどうやらその心配はなさそうだ。 「もっと、殿の話を聞かせてください」 にこにこと人の良い笑みを浮かばせながら楽進は言う。 楽進の笑顔がは好きだった。否、というよりも楽進が好きだった。 (やはり、私には楽進しかいないわ。父上にもそう伝えなくては) 曹操の娘であるには嫌というほど縁談の話が舞い込んでくる。 家の為には政略結婚をせねばならぬとは思っている。 だが楽進のことが好きでたまらない。他の者の妻になるなど考えられない。 その為、その度に断っているのだが曹操はがここまでどこにも嫁ぐ気がないことをあまり良いとは思っていなかった。 想う相手がいること、そしてその相手が楽進ならば曹操も相応しいと思ってくれるかもしれない。 「私ばかりでなく楽進の話も聞きたいのだけれど。戦の話とか聞かせて」 「しかし、戦の、しかも私などの話など殿にはつまらないかと…」 「そんなことないわ。戦の話がつまらないと思ったことはないもの」 戦の話はよく曹操や曹丕から聞いている。 いつかは是非自分も戦場に立ちたいと思っているが、残念ながら才能がないのか何をやっても一般兵以下で、仕方なく戦に関しては話を聞くだけに留まっている。 戦場に立てれば戦場でも楽進と一緒にいられるのに、と思うが今のところそれは叶いそうにないのが残念でならない。 「それに…その、私、楽進のことが好きだから、貴方の話なら何でも良いというか…」 楽進に想いを寄せる女人がいないとは思えない。 彼女達に対して曹操の娘という立場を利用し、こうして楽進との距離を縮めようとするのは卑怯と言えるかもしれない。 それでも利用できるものは利用しなくては損というものであろう。 だからこうしてこの立場を利用し、精一杯好意を示してみせる。 楽進は一瞬驚いたのか目を瞬かせたが、すぐにまた先程と同じ笑みを浮かべた。 「殿にそう仰っていただけるなんて、恐縮です。私も、殿のことが好きです」 好きという言葉が嬉しくて思わず頬を赤らめるが、これが自分が望む言葉ではないことをは理解していた。 楽進の「好き」はの「好き」と同じではないだろう。 こんなにも幾度も好意を示しているのに楽進は一向に気がつかぬらしい。 それだけがの楽進に対して唯一の不満な点であった。 いつかは愛になるといい title : 寡黙 |