窓の外を見ると、美しい満月が空で輝いていた。 こんな月を見ていると、どうしても思い出してしまう事がある。 自分を拒絶した『彼女』が言った言葉を。

「ユーリと月は、似ているわね」

そう言った『彼女』はもう此処に居ない。 自分の正体を知って、恐れ、逃げて行ってしまった。 もう過ぎてしまった事だと分かっているのに、未だに忘れられない。

「月を、見ているんですか?」

ふと後ろから聞こえてきた声で、ユーリは後ろに振り向いた。 そこには、柔らかい笑みを浮かべている異世界の少女が立っていた。 遅くまで何かをしていたのだろう。 寝巻きではなく、普通の服を着ている。

…」
「いいですよね、月って。私、好きです」

はそう言うと、ゆっくりとした足取りでユーリの隣にやって来た。 MZDに頼まれ、自分の城に住まわしているこの少女。 彼女を見ていると、『彼女』の事を思い出す。 『彼女』も異世界からやって来て、行く当てがないという事で同じ様に住まわしていた。 自分のような妖怪を恐れていた『彼女』に嫌われたくない一心で、自らの正体を隠して。

「ユーリさんはどうですか?」
「…私は、あまり好きではない」

ためらいがちにそう答えると、は少し残念そうな顔をして「そうですか」とだけ答えた。 その顔を見て、少し胸が締め付けられる思いに駆られた。 だが、好きにはなれないのだ。 月を見る度に、『彼女』の事を思い出してしまうのに。

「…昔、ある人物に私と月が似ていると言われた」

気がついたら、何故か『彼女』に言われた事をに話し始めていた。 は不思議そうな顔でユーリを見たが、何も言わない。

「どこか感じる月の寂しさと私は同じものを感じさせる、と」

それも『彼女』との生活で無くなっていくと思っていた。 しかし、無くなる前に『彼女』は出て行ってしまった。 その時、ユーリには分かった。 嗚呼、自分はずっとこの寂しさから逃げ出せないのだと。

「…私は、そうは思いません」

どことなく緊張した声色で、は言った。
そしてしっかりとユーリの目を見据え、喋り出した。

「今のユーリさんからは、私、寂しさなんて感じられません」
「寂しさが、感じられない…?」
「はい。だってユーリさんは、とても温かい人ですから」

そう言って、はユーリの手をとった。 の温かい体温が伝わってくる。 彼女の、心の温かさが伝わってくる。

「ユーリさんに月と同じ寂しさがあるのなら、こんなにも温かい人の筈がないです。だから、そんな事を言わないで下さい」

の声は、どことなく震えていた。 こんな自分の為に、泣きそうになっているというのか? 『彼女』に言われた事をずっと引きずり、寂しさから逃げ出せない自分を。

「同じ様で、似ていてもやはり違う人間、か…」
「え?」

小さく口元に笑みを浮かべると、ユーリはの腕を引き、自分の方に引き寄せた。 先程から感じていた以上に、の温かさが伝わってくる。 突然の事で驚いたのか、大きくの胸が高鳴ったのが聞こえた。

「ユ、ユーリさん!?」
「…暫く、このままでいさせてくれないか」

少しの間沈黙があったが、か細い声では「はい」と呟いた。 ほんの少しだけ。 この間だけでも、このままで。 月がいくら出ていようとも、がいれば寂しさなど消えていくような気がユーリはした。

今宵、月の下で