今日も彼は此処へやって来るだろう。 このところ毎日続いている。 何を言おうと彼は笑顔でやって来るのだ。 こんな何もない公園に、ずっとベンチに座っている自分に会いに来る。

さん、こんにちは」

ほら、やって来た。 屈託のない笑顔でこちらを見つめてくる。 は冷めた目で彼を見たが、表情など変えず、の許可なしに隣へと座った。

「君、また来たの」
「はい。だって昨日、言ったじゃないですか。『明日も来ますからね』って」
「私は承諾してないわよ。ええと……」
「ハヤトです。いい加減覚えて下さい。毎日こうして貴方に会いに来ているんですから」

ハヤト、というこの少年の名前をは覚える気などさらさらない。 彼が帰った後にすぐ忘れてしまうようにしている。 こんな名前、覚えていても仕方がない。

「まあ、名前なんてどうでもいいわ。早く此処から立ち去ってくれない?」
「嫌です。僕はさんの傍に居たい」
「そういう言葉はもっと大切な別の人に言いなさい。私なんかに言っても仕方がないでしょう」
「そんな事はありません。僕はさんが好きです。誰よりも」

何故そうなったのか経緯は知らないが、ハヤトはに恋愛感情を抱いているらしい。 としてはいい迷惑なのだが、全くハヤトは気にしていない。

「私には年下趣味なんてないの。君となんて一緒に居たくないの」
「例えさんがそう思っていても構いません。僕の想いは変わりませんから」
「……君ねぇ、私を困らせたいわけ?」
「まさか。そんな筈ないですよ」

ああ、苛々する。 本当ならば此処から立ち去ってしまいたいのだが、そうもいかない理由がある。 此処に居なければならない、理由がある。

「そういえば、そろそろ教えてくれませんか?」
「君に教える事なんて何もないんだけど」
「ずっと、誰を待っているんですか?」

思い切りハヤトを睨みつけたが、彼は動揺も何もしなかった。 ただ、顔は真剣そのものだ。

(誰だっていいじゃない、そんな事。君には関係ないんだから)

それに、どうせ待ち人は来ない。 いくらが待っても、来る筈などない。 分かっているのに、ずっとは待ち続けている。 もう誰を待っているのか分からなくなるほど、待ち続けている。

「……それじゃあ、僕はもう帰りますね。さんを困らせてしまったみたいですし」
「もう二度と来ないでよ」
「それは無理です。貴女の事が好きですから、明日も来ます」

ハヤトは再び笑顔にり、それでは、と言ってベンチから離れた。 また来る気か、彼は。 迷惑な奴だと思ったが、ふと自分のある感情に気づく。 心が高鳴っている。 嫌な奴が居なくなったという喜びではない、この感情。 …もしや、彼が再び来る事を嬉しがっているとでもいうのか?
まさか。迷惑なだけではないか、あんな少年。 先程までハヤトが座っていた自分の隣を見つめ、馬鹿馬鹿しい、と心の中で毒づいた。

待っているのは