独占欲と支配欲というものを兼ね備えてた相手ほど面倒な事はない。 長い間、旅をし続けて学んだものの一つだ。 そういう奴は自分の欲に溺れるのがオチだ。 まともな奴は、ほとんど居ない。

「六、には手を出すなよ。あいつは俺のだからな」

幾度この言葉を聞かされたかは分からない。 本当に独占欲の強い奴だと思う。 まだはお前のものになってなどいないだろう。 これが世の言う“神様”なのだから笑ってしまいそうだ。 しかも俺の想いを知って言っているのだから、酷く腹立たしい。

「お前は世の全てのものを愛し、憎まなければならないんだろう? 一人の人間を愛すのは掟破りなんじゃないのか」
「…いいんだよ。は別だ。お前は俺の言葉に従っていればそれでいい」

彼女を、を独占しようとし、俺を支配しようとする。 全てはが欲しいが為。 きっと、俺以外の奴等にも同じ事を言っているのだろう。 思わず笑ってしまうと、奴は怪訝そうな顔をした。 どうもこうも、笑わずにはいられない。 なんと可笑しな話だろう。 過去に一度、掟を破り、どうなったのか忘れてしまったのか。 もしもがこの場に居たらなんと言うだろう。 きっと、この馬鹿げた自己満足しか考えていない世の神に対してその可笑しさを指摘するに違いない。 馬鹿みたいに正直で心優しいあいつならば言う筈だ。 だがこいつにはそんな事など想像する事が出来ない。 手に入れる事しか考えず、何も見えてはいない。 こんな奴にを幸せにする事など出来はしない。 掟を破ったせいで力を暫く失い、挙句、無理矢理に手に入れたせいでは死ぬ。神とはいえど万能ではない。掟に縛られている。 そして、お前の思っている以上にその掟は甘くない。 本当は、誰よりもお前が分かっていなければならないのではないのか?

「六、絶対にに手を出すなよ」

嗚呼、やはりお前は忘れてしまったんだな。 独占欲と支配欲しかないお前では無理だ。 大人しく世の全てを見つめていればいい。 お前はこのままでは、報われる事などないのだろう。

きっと彼は報われないまま