小走りで足を進ませ、目的地へと急ぐ。
胸の内で不安が広がり、幾度かそのせいで転びかけた。
走る事数刻、ようやく目的地へ辿り着けばやはり想像した通り、
自分が仕えている主が縁側へ座って空を眺めていた。
否、実際は眺めているわけではないかもしれない。
そろそろと近づこうとするとその人物はゆっくりと口を開いた。 「…誰だ?」 「で御座います。吉継様」 ああか、と主である吉継は微笑んだ。 しかし、は笑みを浮かべることが出来ない。 むしろ逆に泣きたい気持ちでいっぱいになる。 「吉継様、もしや目が…」 「ついに、見えなくなってしまったよ」 大事であろうこの事を、さらりと吉継は言ってのける。 その言葉で、は身体の力が抜けていくのを感じた。 家臣や他の侍女達がしきりに吉継様はついに目が見えなくなった、と言っていた。 はそれが信じる事が出来ず、吉継を捜して此処まで来た。 嘘であってほしかった。 目が見えぬようになってしまったという事は、病の進行がそれだけ進んでいるという事である。 分かってはいたものの、吉継の命は長くはない。 この主が目の前からいなくなってしまう事が、には耐えられない。 「、こちらへ来なさい」 黙ってじっと立ち尽くしていると、吉継は手招きしてみせた。 泣きたいのを堪え、言われた通り傍らへと行き、その隣りへと腰掛ける。 普段ならばただのしがない侍女でしかない自分が吉継の隣りへ座るなど、 恐れ多くも光栄なことだと喜んだであろう。 だが、喜ぶ事が出来ない。 「君が気に病む事ではない」 「…分かっております」 「では、何故泣きそうになる必要がある」 少しばかりは驚いた。 目が見えなくなったというのに、自分の思いを見透かしてしまう。 目が見えていた頃からそのような事はあったが、まさか目が見えなくなってからも見透かされるとは。 思わず言葉に詰まってしまうと、突然と吉継はの頭に手をのせるとまるで幼子をあやすかのような手つきで頭を撫で始めた。 「よ、吉継様っ!?」 「、君が私の事を思って気に病んでくれているのはとても嬉しい。だが私は、君に泣いてほしくはないのだよ」 頭を撫でながら吉継は言う。 その温もりは泣きたいぐらいに温かく、そして愛しくと感じる。 「君に泣かれては、その顔ばかり頭に浮かんできて私は君の笑顔を忘れてしまうだろう」 「吉継様…」 「しかし、笑っていてくれれば私は君の笑顔を思い出せる。それに…」 「それに?」 「私は、君の笑顔が愛しいのだよ。否、むしろ君自身が」 一気に身体中の熱という熱が高まり、顔が赤くなるのをは感じた。 所謂、愛の言葉というものを吉継は平然として口に出した。 普通ならばこのような恥ずかしい言葉をこうも簡単にはいえないだろう。 吉継はというと相変わらず微笑したまま、どうした、と言っての頭を撫で続けている。 恥ずかしさから脱しきれず、はただ黙ってかぶりを振った。 |