まさか泣かれる等とは思ってはいなかった。
これ程までに彼女が自分の事を考えてくれていたとは思わなかった。
ほんの少しでも、もしや、と期待をしてしまう。
「殿」 困惑しつつも声を掛けるとは俯いた。 泣き顔を見られたくはないのだろう。 幾ら過去何度も戦場に立っているような人間であるとはいえも女だ。 そういうものを気にするのは極自然な事だといえる。 「あんたは、そうやって私やあの娘を悲しませて、それでもまだ悲しませるんだわ」 「……それでも私は、意地を貫きたいのです」 「ええそうでしょうね。そういう人だもの、真田幸村という男は」 あんたのそういうところが大嫌いよ、と呟かれる。 心が痛んだが幸村は己のやろうとしている事を変えるつもりはなかった。 武士としての生き様を示す。それは誰にも止めさせはしない。 「でも言うわ。死なないで。死んでは駄目」 「殿」 「死ぬつもりなんでしょうけれど、そんなの許さない。如何してもと言うのならばあんたと戦う事になろうとも私が止める。それこそ、死んででも」 驚いてを見つめたが、相変わらずは俯いたままだ。 そこまでして幸村をは止めたいのだ。死なせたくはない。 純粋に嬉しかった。 無論、幸村は意地を貫き通すつもりでいる。 が幾らそう思ってくれていてもそれだけは変わらない。 されどにそう思って貰える事がただ嬉しかった。 「……分かりました。では、止めてみて下さい、私を」 「ええ。必ず。あんたを死なせなんかしない。例えそのせいであんたと戦う事になっても止めてみせる」 それ故、幸村はこう返すしかなかった。 武士としてという思いは幸村にとって全てであり、 がどれ程愛しくても彼女の為に死なずに生き残る事は出来なかったのである。 も幸村が武士というものをどう思っているか分かっていて言っているに違いない。 だからこそもうこれで満足したようだった。やっと顔を上げて微笑む。もう泣いてはいなかった。 そして、やっぱりそういうところは嫌いだけどあんた自身は嫌いじゃないよ、と先程のように呟いた。 恋愛としての意味ではないのかもしれない。幸村を仲間として思っているだけかもしれない。 そうだとしても、やはりにそう言われるのは嬉しかった。 消えぬリアクタンス |