目の前で見知らぬ幼女が腕を組み、仁王立ちしている。 はて、こんな幼女は此処にいただろうか。トウヤの記憶にはフラットにこんな幼女はいない。ただ誰かに似ている気はする。 不思議に思っていると、幼女は不機嫌そうに顔をしかめ、やはりこれまた不機嫌そうに言葉を発した。

「トウヤよ、何をそんなにじろじろと見ておるのだ。わらわとて好きでこのような姿になっているわけではない」

暫しして、だ、と脳裏に閃いた。少し前から此処で厄介になっている雪女がいる。 彼女は随分と気位が高く、トウヤを下僕と称して何かと扱き使おうとする存在であった。 だがこの幼女はトウヤの記憶にあるの姿とは少し異なる。はトウヤより少し年上に見える外見を持っている。年齢が違うのだ。 しかしトウヤのことを知っていることや、この物言いとよく似た外見からなのは間違いないだろう。とすると何らかの理由でこのような姿になっているらしい。 トウヤの顔を見て察しがついたのか、幼女ことは少しばかり顔を赤くした。

「し、仕方ないであろう! こうも暑いとわらわも辛いのだ」
「暑い? 普通に温かい日ではあるものの暑いとまでは…」
「暑いのだ! そういう日は体力も魔力も消耗が激しいからな、だからこうして幼い姿にだな…」

べらべらと話し続けるの言葉を聞き流し、トウヤは得た情報を整理しまとめ始めた。 つまりこのような暖かい日でもにとってみれば暑いというレベルらしい。そういえば少し寒い日にちょうどいい等と言っていた気がする。 そして、暑いと体力と魔力の消耗が激しいため、小さくなりそれを最小限に抑える。成程、それらしい話である。

「おい、トウヤ!貴様、わらわの話を聞いていないな!?」
「え? ああ、悪い。聞いていなかった」
「鬼妖界でも名の通ったわらわの話を聞かぬとはとんだ無礼も……うう…っ」

突然とぐらりとの身体が崩れ落ち、慌ててトウヤはそれを支える。 その小さな身体に、本当に小さくなってしまったんだなと実感する。

「少し怒鳴りすぎた…暑さで視界がまわるようだ…」
「全く、調子が良くないのにあんなにも怒鳴るから…」
「誰のせいだと思っている!!…あ、あううう…」
「ほら、また。少しぐらい静かにしてろ」

尚も怒鳴ろうとするにそう言うと、その小さな身体を横抱きにして持ち上げた。 所謂お姫様抱っこというもので、抱きか抱えるにはこれが一番良いだろうという判断からであった。 一瞬の動きが止まる。それと同時に、先程よりも顔が赤く染まっていくのが見てとれた。

「…………ト、トウヤ!何のつもりだこれは!」
「此処にいるよりももっと涼しい場所に移動した方が良い。けど今の状態じゃ動けないようだから、そうなると僕が運ぶしかないだろう」
「だからといって、こ、このような…」
「静かに」

トウヤの有無を言わさぬ声色に臆したのか、の動きが再度止まる。 普段は見られないような困った顔をしたかと思えば、そのままそろそろと腕をトウヤの首に回し、抱き付いてきた。

「ま、まあ…わらわのことを考えてというならば…うむ、下僕らしい良い考えではあるな…後で何か褒美のひとつぐらいはくれてやらぬこともないぞ」

素直に礼を言えばいいのに。思わず小さく笑ってしまえば、の腕の力が強まった。 本当に素直じゃないなと苦笑する。 本来の姿でも同じくらい素直ならばトウヤももう少しぐらい素直になるつもりでいるのだが、これではまだ当分先になりそうだ。

あまのじゃく