「よし、じゃあ、約束しようぜ。俺が絶対にお前をその場所まで連れて行く。それで、一番の景色を見せてやる!」
「約束……ですか」
「ああ。約束だ」

そう言って笑うレイの顔が、ふと、遠い記憶の片隅に残る人物と重なった。 ぎゅっと車椅子の手すりを強く握りしめる。約束だ。 その言葉が、をここから離れなくさせ、そうして、苦しめる。

「私、約束という言葉は、嫌いです」
「嫌い?何でだ?」
「約束というものは、一種の呪いです。その約束で確かに幸せになれる者もいるでしょう。しかし、相手を束縛し、苦しめるものでもあります。叶わない約束のせいで思う通りに行動が出来なくなるのです。場合によっては永遠に」

そもそも、この星から動けないのも「約束」のせいだ。 本当ならばもっと医療技術が発達した星へ行くべきなのだ。 このままこの星にいたところでの足は治りはしない。一生車椅子で過ごすしかない。 それでも、必ずまたここに来るからと。 そう約束したから、また会う日までこの星を離れるわけにはいかない。 この様子ではそれがいつになるのか、それとももう来はしないのかは分からないのだが。

「レイ、貴方の気持ちは嬉しいです。 あの人と初めて出会ったあの場所には、確かに私ももう一度行ってみたい。 でもこんな足ではいくら貴方が連れて行ってくれると言っても行くことは叶わない。 だから、良いんです。それに、約束はもうしたくありませんから」

何故また嫌な思いをしなければならないのか。そんなことはもうたくさんだ。 そういった思いを込め、断りの言葉を呟く。 するとレイは、腕を組み暫し悩んだかと思えば、よし、と真剣な顔でを見た。

「なら、俺が約束も良いもんだって教えてやる」
「……良いものだと教える?」
「俺は約束は破らない。そんな考えなんてくだらないって思わせてやる。 だから、行こうぜ!」

の言葉など聞き流したかのような、あっけらかんとした表情でレイは笑う。 これにはも毒気を抜かれた思いになった。 そして、この笑顔と言葉が、またの胸を苦しくさせる。この人は本質的には変わっていないのだと。 記憶を失い、自分のことを、自分との約束を忘れてしまってもやはりレイはレイなのだと。 そう考えると、不意に涙が零れそうになり慌ててかぶりを振って誤魔化せねばならなかった。

「…………もしかしたら、約束はある意味で果たされているのかもしれませんね。例え、覚えていなくても」
「どういうことだ?」
「いいえ、何も。……では、そこまで言うなら、お願いしましょうか。レイ、どうか私をあの場所まで連れて行ってください」

任せておけ、とレイは自信有り気に胸を叩く。その姿が懐かしく、今度こそ涙が零れ落ちた。


忘却の無意味さを知る

title : 亡霊